サンタむちゅめ襲来っ(3)

作者:ゆんぞ
更新:2003-10-20

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電車を集め終えたクラファは、駅員に礼と詫びを言って車庫を離れる。

一悶着――いや、三~四悶着くらいは有ったかもしれないが、どうにか収集リストにある品物は集め終えた。初仕事の成功(?)に心踊らせながら、クラファは携帯電話のようなモノをポケットから取り出して先輩のサンタに連絡を取る。
「あ、どーも、ルーディさん。クラファです♪」
「はい……って、どうしたの今頃?」
携帯越しに聞く先輩の声は、始めは眠気を、その次には軽い驚きを伴っていた。
「え? ああ、実は……品物を全部集めてしまったので、連絡をと思いまして」
先輩の驚きは予想より早く集めたからだと思ったクラファは自信たっぷりに報告する。だが携帯の向こうからは、タイムラグとは明らかに異なる間を挟んで質問が返ってくる。
「あんたの回収って、まだ先じゃ無かったの?」
「えっ?!」
その指摘にクラファの思考は凍りつく。それでも直ぐに収集リストを思い出した彼女は、懐からそれを取り出して冒頭の部分を確認してみる。

作戦開始 : ○×日   〇二 : 〇〇(現地時間)
作戦終了予定 : ○×日 〇四 : 〇〇(現地時間)
終了予定時刻までに回収しきれない場合は、不足分を速やかに連絡すること。

「えーっと、現地時間の二時~四時ってあったので、その時間に合わせて来たんですけど……」
またミスしたのだろうかと悪い予感を感じながらも説明するクラファ。だが、先輩の応答はそっけない。
「ん? いや、だから。それがまだ先ってことなんだけど」
「え、えっと……そう、なんですか?」
「あんたね、星によっては地域毎に標準時が違うって教わらなかったの?」
………………
「ああっ!」
思わず上げた叫び声で、彼女の前面にあるビルのガラスが高い音を立てて砕け散った。その威力に驚き周囲を見渡すクラファ。声の直撃を受けていないビルはヒビこそ入っているものの 概ね無事のようだ。
「あ、あんたねぇ……耳元で大きな声立てないでよ」
ルーディの不機嫌な声が聞こえる。
「まあ、いいわ。とりあえずそっちに向かうから、待ってなさい」
「は、はい……」
先程の自信はどこへやら、返事するクラファの声は既に力を失っている。
「まあ初めてってこともあるし、そんなに被害出してなければ大丈夫だから。ね?」
軽くフォローを入れてルーディは通信を切る。

だが、その科白でクラファは深夜に色々集める理由が被害を最小限に留めるためであることと、今まで自分がしでかしたことを思い出した。寸断した高速道路とか、ガソリンスタンドの火事とか、転んだこととか……。先輩が来る前に何とかしなければならない。

そう思って駆け出すクラファにいきなり着信が入る。発信元はさっきのルーディ先輩だ。
「は、はい先輩。何でしょう」
「あんた、いま動こうとしたでしょ」
単刀直入にルーディは低い声で言った。いきなり鋭い指摘を受けてしまい、クラファは「いえ、あの……」と しどろもどろにしか応えることしかできない。
「あのさあ。端末で位置が解るって、あんた聞いてなかったの?」
もはやルーディの声は呆れている。
「自分で何とかしようなんて考えちゃだめよ、あんたドジなんだから。いいわね!?」
「はぁい……」
行動まで見透かされてしまっては、もう大人しくするしかない。クラファは力のない声で応えた。
「それから。端末置いてどっかに行こうなんてのも、考えちゃだめよ?」
(いや、そこまでは考えていませんって……)
反駁の言葉が喉まで出かかったが、彼女はそれを飲み込んで また力のない変事をした。


携帯を再び懐に仕舞ってから、クラファはさっき窓が砕けたビルの中をのぞき込んで見る。最初はしゃがんで上層階を、そして身を屈めて下へと。最後には座って頭を擦り付けた姿勢でどうにか一階の様子を伺うことができる。

幸いにして、ビルの中に人は残っていないようだった。クラファは座ったまま四つ辻を占領し、先輩の到着を待つ。

先輩が来るまでの間、彼女はこのことをどう言い訳するか、そしてルーディ先輩が怒ってたらどう謝るかを考えていた。

日はまだ高い。初仕事だというのに、今日は長い一日になりそうだ……。


とりあえずここで一旦区切りです。
今回は声だけ登場の先輩サンタですが、彼女の出番はこれからということで(笑


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